
抜歯後の痛みはなぜ起こる?不安を解消する身体のメカニズム
これから親知らずの抜歯を控えている方、あるいは抜歯を終えたばかりの方。 「抜いた後って、どれくらい痛いのかな…」「顔がパンパンに腫れたらどうしよう…」 手術後の痛みや腫れについて、大きな不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。
まず、あなたに一番お伝えしたい大切なことがあります。 それは、抜歯後の痛みや腫れは、身体が一生懸命に傷を治そうとしている「正常な反応」であり、「順調に治癒が進んでいるサイン」だということです。
痛みと腫れは「治癒のサイン」
少しイメージしてみてください。もし転んで膝をすりむいてしまったら、傷口の周りは赤く腫れて、ジンジンとした痛みがでますよね。これは、傷ついた組織を修復するために、血液や栄養がその場所に集まってきている証拠です。
実は、抜歯後のお口の中でも、これと全く同じことが起こっています。抜歯、特に親知らずの抜歯は、歯を抜くだけでなく、場合によっては歯茎を切開したり、歯を支えている顎の骨をわずかに削ったりすることもある「小さな手術」です。身体にとっては「傷」ができた状態ですから、その傷を治すために身体の防御システムが働き、炎症反応が起こります。これが、痛みや腫れの正体なのです。
親知らずの抜歯が特に痛みやすい理由
「でも、他の歯を抜いた時より痛いって聞くけど…」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、親知らずの抜歯は他の歯に比べて痛みや腫れが出やすい傾向があります。なぜなら、親知らずは顎の一番奥にあり、横向きに生えていたり、骨の中に深く埋まっていたりと、複雑なケースが多いからです。そのため、抜歯の際の身体への負担が少し大きくなり、治癒の過程でおこる炎症反応も強く出やすいのです。
しかし、これも身体が頑張って治そうとしている証拠。 このメカニズムを知るだけで、闇雲に怖がる必要はないと、少し気持ちが楽になりませんか?
痛みと腫れのピークはいつ?【抜歯後48時間が鍵】
「この痛み、一体いつまで続くんだろう…」 抜歯後のダウンタイムで最も気になるのが、痛みと腫れのピークがいつ来るのか、ということですよね。
結論からお伝えすると、多くの場合、痛みのピークは抜歯後24時間まで、腫れのピークは抜歯後48時間までとされています。この「48時間」を乗り切ることが、ダウンタイムを乗り越える一つの大きな鍵となります。
もちろん個人差はありますが、一般的な回復スケジュールを知っておくだけで、先の見えない不安を大きく和らげることができます。
抜歯後の一週間、身体はどう回復していく?
抜歯当日(〜24時間) | 【痛みのピーク】抜歯後2〜3時間で麻酔が切れると、ジンジンとした痛みが出始めます。この時間帯が痛みのピークになることが多いです。処方された痛み止めを上手に使いながら、安静に過ごしましょう。腫れはまだあまり目立たないか、少し頬が熱を持っているように感じる程度です。 |
抜歯後2日目(〜48時間) | 【腫れのピーク】 朝起きると「昨日より顔が腫れてる!」と驚く方が多いのがこの時期。痛みは少しずつ和らいでくる一方で、炎症反応が最大になり、腫れがピークを迎えます。痛みよりも、口の開きにくさや、顔の腫れによる違和感が気になるかもしれません。 |
抜歯後3日目(〜72時間) | 回復期へ 腫れが少しずつ引き始め、昨日より楽になったと感じられる方が多いでしょう。痛みもかなり落ち着いてきます。この頃から、内出血によって頬が黄色や紫色っぽく変色することがありますが、これは治癒の過程で見られる自然な現象ですので心配いりません。 |
抜歯後1週 | 日常生活での支障はほとんどなくなります。痛みや腫れはすっかり引いているか、残っていてもごくわずかです。頬の変色も徐々に薄くなって消えていきます。 |
このように、回復には一定のスケジュールがあります。「今は腫れのピークなんだな」と客観的に捉えることができれば、落ち着いて対処できますよね。
抜歯後のダウンタイムを快適に!食事と生活の注意点
痛みや腫れのピークが分かっても、「具体的にどう過ごせばいいの?」という疑問が残りますよね。抜歯後の数日間は、安静にし、傷口を刺激しないように過ごすことが、順調な回復への一番の近道です。
ここでは「食事」と「生活」に分けて、具体的な注意点を見ていきましょう。
【食事編】おすすめのメニューと避けるべき食べ物
抜歯当日は麻酔が効いているため、頬や唇を噛んでしまわないよう、麻酔が完全に切れてから食事を摂るようにしてください。

【おすすめの食べ物】
- おかゆ、雑炊、よく煮込んだうどん
- スープ、シチュー
- 豆腐、茶碗蒸し
- ヨーグルト、プリン、ゼリー、アイスクリーム
ポイントは「噛まずに飲み込める、柔らかいもの」を選ぶこと。また、熱いものは血行を良くして痛みを増す原因になるため、人肌程度に冷ましてから食べるようにしましょう。
【避けるべき食べ物】
- 硬いもの:おせんべい、ナッツ、フランスパンなど(傷口を刺激します)
- 刺激物:香辛料の効いた辛いもの、酸っぱいもの(傷口にしみます)
- 細かい粒状のもの:ゴマ、イチゴの種など(傷口に入り込むと感染の原因に)
- アルコール類:血行を促進し、痛みや出血を悪化させる可能性があります。
特に注意したいのが、ストローで飲み物を飲むことです。吸い込む力でお口の中が真空状態になり、傷口を塞いでいる「血餅(けっぺい)」というかさぶたの役割をするものが剥がれてしまう危険性があります。血餅が剥がれると、骨が露出し激しい痛みを伴う「ドライソケット」の原因にもなりますので、抜歯後1週間程度は控えましょう。
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【生活編】うがい・歯磨き・入浴・運動はいつからOK?
うがい | 抜歯当日は、強い「ブクブクうがい」は避けてください。血餅が剥がれてしまう原因になります。お口に水を含み、顔を傾けて優しくゆすぐ程度にしましょう。 |
歯磨き | 抜歯した箇所以外は、当日も普段通りに磨いて問題ありません。お口の中を清潔に保つことは、感染予防にとても重要です。ただし、歯ブラシが傷口に当たらないよう、慎重に、ゆっくりと磨きましょう。 |
入浴・運動・飲酒 | これらに共通するのは「血行を良くする行為」であることです。血の巡りが良くなると、痛みが増したり、出血が再発したりする可能性があります。抜歯当日は湯船には浸からず、シャワー程度で済ませましょう。激しい運動や飲酒も、最低でも2〜3日は控えるのが賢明です。 |
喫煙 | タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて傷の治りを悪くする大きな原因となります。感染のリスクも高まるため、抜歯後はできるだけ禁煙を心がけましょう。 |
少し窮屈に感じるかもしれませんが、この数日間の少しの我慢が、その後の快適な回復に繋がります。
痛み止めはいつ飲む?処方薬の正しい付き合い方
抜歯後には、多くの場合「痛み止め」と「抗生剤(化膿止め)」の2種類が処方されます。これらはあなたの順調な回復をサポートしてくれる、とても大切な薬です。
「痛くなったら飲めばいいの?」「症状がなければ飲まなくていい?」 自己判断で服用すると、かえって回復を遅らせてしまうことも。ここで、正しい薬との付き合い方を確認しておきましょう。
痛み止めを飲むベストなタイミング
処方される痛み止め(鎮痛剤)を最も効果的に使うコツ。それは、「痛みが本格的に始まる前に飲む」ことです。痛みという感覚は、一度強くなってしまうと、薬を飲んでも効きにくくなる性質があります。そのため、抜歯後、麻酔が完全に切れる前(目安として処置後1〜2時間)に1回目の痛み止めを飲んでおくことをお勧めします。
「まだ痛くないから…」と我慢してしまう方がいらっしゃいますが、これは逆効果。「痛くなりそうだな」と感じた時点で、早めに服用するのが、抜歯後の痛みを上手にコントロールする最大のポイントです。もちろん、その後痛みがなければ無理に飲み続ける必要はありません。ただし、処方された用法・用量(例:1回1錠、6時間以上あけるなど)は必ず守るようにしてください。
抗生剤は必ず飲み切ることが大切
抗生剤(化膿止め)は、抜歯した傷口から細菌が入り、感染症を起こすのを防ぐための薬です。こちらは痛み止めとは違い、症状の有無にかかわらず、処方された分量を必ず最後まで飲み切る必要があります。
痛みがなくなったからといって自己判断で服用を中断してしまうと、生き残った細菌が薬への抵抗力を持ってしまう「耐性菌」に変化する恐れがあります。そうなると、次に同じ薬を飲んでも効かなくなってしまう可能性があるのです。必ず、歯科医師の指示通りに最後まで服用を続けてください。
自己判断での市販薬の服用はNG
「処方された薬がなくなったけど、まだ少し痛むから…」といって、ご自宅にある市販の痛み止めを服用するのは避けてください。処方薬との飲み合わせや、予期せぬ副作用のリスクがあります。 もし痛みが続くなど、ご不安な点があれば、まずはクリニックへご相談ください。
こんな症状は要注意!すぐに歯医者に相談すべきサイン
ここまでの解説の通り、抜歯後の痛みや腫れは、通常であれば時間と共に必ず落ち着いていきます。
しかし、ごく稀に、通常の治癒のプロセスから外れてしまい、専門的な処置が必要になるケースも存在します。これから挙げるような症状が見られた場合は、我慢したり、自己判断したりせず、すぐにクリニックへご相談ください。
- 痛み止めが全く効かない、日に日に痛みが強くなる 抜歯後2〜3日をピークに痛みは和らいでいくのが一般的です。もし4日以上経っても痛みが全く引かない、むしろどんどん強くなるという場合は、「ドライソケット」などを起こしている可能性があります。
- 38度以上の高熱が続く 抜歯後は、身体の反応として37度台の微熱が出ることがありますが、38度を超えるような高熱が出た場合は、傷口が強く感染しているサインかもしれません。
- いつまでも出血が止まらない 抜歯後1〜2日、唾液に血がにじむ程度の出血は問題ありません。しかし、お口の中が血でいっぱいになるようなサラサラとした出血が続く場合は、異常なサインです。
- 歯茎から膿が出ている、強い悪臭がする これらは傷口の内部で細菌が繁殖し、化膿している明らかなサインです。
- 口が指1本分も開かなくなる 腫れによって多少口が開きにくくなることはありますが、指が1本も入らないほど極端に開かなくなってしまった場合は、炎症が周囲に広がっている可能性があります。
「ちょっとおかしいかも?」と感じた時、一番いけないのは我慢してしまうことです。不安なまま過ごすよりも、専門家に診てもらうのが一番の安心に繋がります。当院では、抜歯後の経過もしっかりとサポートさせていただきます。些細なことでも、気になる症状があれば、どうぞ遠慮なくご連絡ください。
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まとめ|正しい知識で、抜歯後のダウンタイムを乗り切りましょう
今回は、親知らず抜歯後の痛みや腫れのピークと、ダウンタイム中の正しい過ごし方について詳しく解説しました。抜歯前は様々な不安があったかと思いますが、ここまで読んでいただいた今、その不安は少し和らいでいるのではないでしょうか。
最後に、大切なポイントをもう一度振り返っておきましょう。
- 痛みや腫れは異常ではなく「順調に治っているサイン」
- ピークは抜歯後48時間。時間と共に必ず回復に向かう
- 食事や生活では、傷口を刺激しない「安静第一」を心がける
- 処方された痛み止めや抗生剤は、指示通り正しく服用する
- 「おかしいな?」と感じたら、我慢せずすぐにクリニックに相談する
親知らずの抜歯は、誰にとっても勇気のいる治療です。しかし、なぜ痛みや腫れが起こるのかを知り、いつがピークで、どう過ごせば良いのかを理解しているだけで、心の準備は大きく変わります。正しい知識は、不安なダウンタイムを乗り切るための何よりの「お守り」になります。
私たち、かわべ歯科クリニックのスタッフ一同、抜歯中はもちろん、抜歯後の経過まで責任を持ってサポートさせていただきます。どんな些細なことでも、不安な点があれば一人で抱え込まず、いつでも私たちを頼ってください。